週末は、主人のやっている空手道場の道場生が一人初段の試験を受ける事になり、アントワープにある本部道場まで行って見てきた。
試験を受ける彼は、上背もあり、筋肉ががっしり、腕も太もももびっくりするくらい太いけれど、全体としては筋肉質なので、太っては見えない、どちらかというとシュワルツェネッガーの小型のような体系をして、力強い空手をする人だ。
何でもストイックに練習をこなす彼は軍人っぽい見た目から道場生からはアーミーってあだ名で呼ばれていたので「アーミー君」と呼ぶ事にしよう。
アーミー君の準備体操は結構キツく、子供たちもヒイヒイ言っているし、グループを分けて担当してもらった時は「気合が足りない!」と子供たちにはっぱをかけ、彼のグループの子供たちの「エイ~!!」の声が響き渡る。さすがアーミー君だ。
でも面倒見がいいので、子供たちには人気だ。いつも周りに子供たちが集まってる。
彼は元々は違う道場にいて、いろんな事をやってきたらしい。黒帯の実力があったのだけれど、違う流派に来たので少し型が違っていたり、初段の要求される審査内容が違うので、一年は1級からやり直す、というこれまた彼らしいストイックさで稽古に来ていた。
子供たちを教える時も、しっかり教えてくれるし、本人もキチっとした空手をする。
体で覚えるタイプなので、繰り返しの練習をいとわない。
そんな彼だけれど、実は、めっちゃくすぐったがり屋で、主人が見本を見せるために形を作って、足の辺りをちょっと押したりすると、「センセイ、くすぐったくてダメです・・・笑」と急に腰砕けになってしまう。あんなに太い太ももなのに?笑。
それにごつい体に相反して、ちょっとした事も気にして、これは失礼ではないか?と聞いてくる質問はほぼどうでも良い内容だったりする。日本語は一言もわからないのに、主人の日本語をなぜか雰囲気で理解して、みんなに伝えてくれたりする。人の事を気にして、他人の心を察する、全然関係なけれど、恋バナとかが好きでウキウキした様子で聞いてくる。そう、心は乙女なのだ笑。
その彼がやっと初段の試験まで来れた。当日、主人も「いつもの通り、普通にやればいいから」と声をかけていたけれど、もうめちゃ緊張しているのが見ていてもわかるくらいだった。
で、試験は順調に進み、まあ、彼の実力なら楽々ちゃう?くらいの気持ちで見ていたんだけれど、ちょっとしたハプニングが起きた。
組み手の相手の人が親指を骨折してサポーターをしてきていて、試験官の人がその旨を伝え、「そこだけ少し気を付けてやってね」と言ってきた。
心優しい乙女の彼は、多分気にしすぎたんだと思う。攻撃が急に弱くなり受け身に回ってしまった。
その親指負傷の人も試験を受けに来ているんだけれど、彼も試験の対象者だ。
ファイティング・スピリッツは見せないと得点にならない。
寸止め空手なので、実際相手に負傷をおわす事はしない。そのコントロールとやる気が採点の対象だ。
そこまで、かなりの強さとスピードを見せてきていたのが急に弱っちくなったのが試験官の気になったのだろう、他の点も併せて、ややきつめの注意を受けた。
それからちょっと頑張って取り戻したけれど、試験官がちょっとイライラしていて、もう一度!と言われ、そこでも「行け、行け!」と言われ、終わっても、もう一度!と言われ、普通の人の倍くらいやらされ、へとへとになって戻ってきた。
でも、彼はそこで、もう駄目だ~!って思ったらしく、ほぼ涙目で「申し訳ない。こんなザマで・・」と私たちの所に謝りに来ていたけれど、主人も全然気にしてなかったと思う。割と普通に「またこれを次に活かして頑張って」って励ましていたけれど、きっと多分余計にああもう駄目だ~先生も次って思ってるんだ、って思っていたのだろう。なんせ、乙女の心だからね笑。
それで、最後に発表になって、一人ずつ合格した人の名前が呼ばれ、今後はこれを気を付けて精進してください、みたいな少し試験官の感想を交えながら、拍手を送られる。
もう最後まで「僕はきっと呼ばれない、今年はダメだった」って感じでうつむいて、口がへの字だ。
最後の方でアーミー君。って呼ばれた。その時。
あまりにもびっくりしたのか、期待していなかった反動なのか、もうあのごつい体の角刈りの目に涙がジワッと溜まって、顔をくしゃくしゃにしながら返事をしていた。
試験官の人もニコニコして、僕もちょっとエキサイトしてしまったけれど、良い空手をしている、他の試験官の人もみんな十分に初段の実力を認めているよ。
それでアーミー君はますます泣けてきて、何だかよくわからないけれど、めちゃくちゃ感動的な幕切れ、となった。
という事で、本来は通常の初段の試験だったんだけれど、なぜかめちゃ感動的な試験の結果となった。まあ、よかったよかった。
おめでとう!アーミー君♪